日本は狭い国だけど、西と東で結構違いがある。
卵焼きもそのひとつ。
西で生まれ育った私にとって、東の甘い卵焼きは衝撃的だった。
その初めての衝撃は、忘れもしない高校の時。
女子にありがちな、お弁当のおかず交換でのことだった。
友人のさっちゃん(仮名)のうちの卵焼きは、ふっくら大きく、ところどころに茶色い焦げ目の入ったそれはそれは美味しそうな卵焼きだった。
私のハンバーグと、さっちゃんの卵焼きを迷うことなく交換。
甘っ!!!
思わず口に出したかどうかは定かでないが、その味は今でもはっきり覚えている。
卵焼きが甘いなんて。何かの罰ゲームなのか?
あれから数十年。
韓国にも卵焼きなる食べ物はあるけど、塩味。砂糖は入れない。
ゆえに、結婚後も我が家の卵焼きは砂糖なしの甘くない卵焼き「だった」。
ところが、帰国して住み始めた藤沢は、押しも押されぬ東の味付け。
どこに行っても甘い卵焼きで、10年以上もここで暮らすと、それに違和感がなくなってきた。
加えてムスコが生まれ、もう我が家の卵焼きは砂糖入りの甘い卵焼きが定番となってしまった。
先日、久しぶりに慣れ親しんだ砂糖なしの卵焼きを作ってみた。
一口頬張るや否や、「これ、何~?かーちゃん、何か間違えたの?」と、ムスコ。
「ばーちゃんの卵焼きはこの味だし、かーちゃんもこの味で育ったんだよ」と答えると、不思議そうに卵焼きを見つめ、ムスコは箸を置いた。
翌日、いつもの甘い卵焼きを作ると、美味しそうにパクパク食べるムスコ。
ムスコにとってはこれが卵焼きの味なんだなと、しみじみ甘い卵焼きを見つめる私。
なんだか、ちょっと寂しい。